2005年03月 バックナンバー
引っ越しました
- 1532005
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引っ越しました
2年ごとに引っ越しを重ねて14年になる。
毎回、3月に引っ越しをして新たな気持ちで4月を迎えることを常としている。今回の物件はちょっとおもしろい。“格安物件 バス・トイレ別 広々ワンルーム 給湯あり 電気なし”
電気が通っていないことを除けば、かなり良質な小型マンション。マンションのオーナーもここに住んでいるとのことで、彼のライフスタイルゆえの物件らしい。だけど、住んでみてその快適性を実感している。
風呂などはガスがあれば問題ないし、なによりも電気がないことによってこのマンションはとても静かなのだ。夜になれば、大きめの窓を通して入ってくる街灯や月明かりくらいの照度で、とても暗い。人というものは、とても不思議なものでそんな部屋の中では、なぜかひそひそ話してしまう。
そしていろいろなことをひそひそとじっくり話した後、それまでの就寝時間からはいささか早い時刻に寝て、次の日早く起きる。
なんだか、ワンランクアップの生活をしているような気がしてくるから不思議だ。
なんとなくではあるけど、2年後、そのまま住むことを考えているような気がする。
ガクの独白
- 0432005
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蓮島を俺たちが定期的に訪れているのは、この地球のバランスを保つためだ。蓮島の防空壕跡から入り、祭壇でカモフラージュされた入り口を抜け、細いトンネルをひたすら下ったところに、エリアCと呼ばれている場所がある。エリアCは、直径10メートルほどのきれいなドーム状をしている。誰かが作ったのか、それとも自然の造形物なのか今となっては誰も分からない。そのドームの壁面には、北半球の立体地図が土と顔料によって形成されている。多分、数百年いやそれ以上の年月を経ているものだろうが、地中の奥深い場所という条件の中、驚くべき良好な状態を保たれいる。その立体地図の変化を1ヶ月に1度、俺たちは確認しに行く。
立体地図は、その姿を微妙に変化させる。顔料がはがれていたり、盛られていた土が崩れていたり…。その崩れ方によって、俺たちは指令を出す。
「○○地区を破壊レベル12で実行」といった具合に。
さらなる説明をすると、まず破壊レベルは最高値が100だ。ちなみに原爆が77、スマトラ沖の地震が39。そして、その指令を受けた仲間たちは、代々伝わる秘法を使い、指定された地区を破壊していく。その方法については、話せる時期が来れば話す。ただ、その秘法は、戦争を起こすことも出来るし、天災地変を自由自在に操れる。
つまり、この立体地図の変化が、地球上の大きな災害と直結しているのだ。そして蓮島は、北半球を担当している。また南米のある島には、南半球の災害と直結する立体地図がある。
信じる、信じないは自由だ。しかし、俺たちの任務はそんなところだ。破壊する行為が正しいことかどうかは疑問を持つことはない。正しいかどうかなんて気にする必要がないからだ。俺たちがやらなければ、誰か他がするだけのこと。壁面の立体地図に俺の考えが及ぶことはない。つまり、意志を持っているのは俺たちではなく、あの場所のあの立体地図なのだ。
だけど、気になったり、心を痛めることはある。まずひとつに、最近、立体地図の姿の変化スピードがあまりに速い。その度に、変化具合を解析して指令を出すわけだが、5年ほど前まではなかった1度の来島で複数箇所の解析を頻繁に経験するようになった。つまり、災害の数が加速するように増えているということだ。
二つ目は、結果的に人間の死に携わってしまうことがつらい。さっき、任務の正義に対して疑問を持つことはないと言ったが、あれは自分に対する言い訳のような気もする。災害によって死んでしまう人間たちの生命を経つべく、スィッチを押しているのは俺たちなのだ。
そして、3つ目。俺の弟の住む地区の破壊指令を出さなくてはいけない可能性が出てきたことだ。そのエリアの顔料が今にも剥がれ墜ちそうになっている。そっと息を吹きかけてあげるだけで、はらはらといってしまいそうなのだ。弟には、そのことを知らせた。弟は、ひとしきり泣いた後、こう言った。
「やっぱり僕はイヤだ。やっと友達が出来たんだよ、人間の。」
俺たちは、かっぱだ。かっぱと言えども、頭に皿はなく姿形は人間そのものだ。古くは、かっぱと人間は共存していた。かっぱを追いやったのは、人間たちだ。ただ、地球を破壊するのは、その復讐のためではない。何度も言うが、場所やレベルを決めるのは、あの空間だ。あくまで、俺たちは中立だ。
ただ、中立であっても、どちらかに振れることはある。
その原因は、弟のことであり、ケイのことでもある。
俺に出来るのは…考え抜くことだけだ。
ある朝自分に言ってみた
- 0232005
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「いいときもあれば、わるいときもある。今日はいい日だよ、きっと。」
誰かいい人
- 0132005
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わたしには戸籍がない。それは社会と関わる必要がないからだ。生まれも育ちも蓮島という地図に載ることのない場所。詳しく書くことが出来ないが、ここは国家機密に属する最たる場所で、その場所をたった1人で面倒を見なければいけない。面倒を見るといっても、何かと戦うわけでもない。ただここで生活しながら、時々来る男たちを待つだけだ。来る日も来る日も待つだけ。それは、江戸時代から続くわたしの家系の宿命らしく、逃れようがないのだ。
そして、島に時々来るその男たちは、島に残る防空壕の中に入り、そこから3日間くらいかけて何かをやっているようだが、何をしているのか分からないし、聞いてはいけないし、自分で調べてもいけない。まあ、そんなに興味があるわけでもないが。とにかくわたしは、ただ待つだけでいいのだ、いつも、いつまでも。
わたしの母は、2年前の夏に他界した。いや、どこかで生きているのかもしれない。というのは、今日みたいに空がきれいな日に、祖父母の墓に花を活けてくると言って出て行ったきり帰ってこなかっただけだから。母親との別離は寂しかったが、すぐ慣れた。蓮島というのはそんな場所だ。起きたことを受け入れなければ生きていけない。そう言えば格好いいが、実はもう一つ理由があるような気もする。母親が言っていた『誰かいい人』が見つかったのだ。『誰かいい人』は、時々やって来る男たちのうちの1人で“ガク”と呼ばれていた。ガクは男たちの中でもとりわけ野性的で、いつもギラギラしている。ガクは無口だ。無駄なことを一切喋ることはない。そのガクが、わたしに新しい機械を与えてくれた。
「これを渡したことは内緒だぞ。見つかると俺たちは…。使い方は、追々教える。」
これは通信機のようなものだと思う。島に来る男だちが、これを耳に当てて外部の誰かと喋るのをよく見かける。いまのところ、この通信機のようなものはわたしに何も与えてくれていない。ガクとわたしは、この機械で繋がることが出来るのだろうか。
わたしは外部と接触することを禁じられてきた…母親に。だから、男たちと話をしてはいけないと教えられてきた。しかし、その母親に
「あなたにもそのうち『誰かいい人』が出来るといいわね。」
とも言われてきた。ガクは、その『誰かいい人』だろうと思う。
生まれてはじめての『誰かいい人』と小さな宝物…風は冷たく空は青い。